AIの前に、現場を見る。 運営:株式会社Nexa
業種別のAI活用2026年9月6日

栃木の農業でAIをどう使う?|いちごの温度管理から始める実装手順

結論: 栃木の農業でAIを使うなら、まず温度や作業時間を記録し、異常通知で現場の判断を助けるところから始めます。
理由: 栃木県内の公式事例でも、データをためるだけでは改善につながらず、栽培中に確認して対応できる仕組みが必要でした。
実行: 一つの圃場と一つの課題に絞り、4週間だけ記録と通知を試して、見回り時間や見落としが減ったかを比べます。
注意: センサー、ロボット、自動化を一律にAIと呼ばず、測定誤差と機器停止に備えて人が確認する範囲を残します。

対象読者:栃木県内の農業法人、施設園芸、畜産、土地利用型農業の経営者と現場責任者
今日やること:毎日確認している項目を一つ選び、記録方法と判断基準を書き出す

栃木県の農業でAIを使うと聞くと、収穫ロボットや収量予測を思い浮かべるかもしれません。
ところが、県内のいちご農家を扱った農林水産省の事例では、出発点は温度の記録でした。

記録できれば十分に思えます。
実際には、栽培が終わってから数字を見ても、目の前の高温や機器の異常には間に合いません。
AIより先に整えるべきものが、ここにあります。

結論:記録、通知、予測の順に進める

農業で使われるデジタル技術は、役割ごとに分けると判断しやすくなります。
センサーは状態を測り、通知は異常を知らせ、自動化は決められた動作を実行します。
AIは、蓄積したデータから予測や判定を補助する位置にあります。

段階 主な働き 現場で確かめること
記録 温度、湿度、水位、作業時間を残す 欠測や誤測定がないか
通知と自動化 閾値超過を知らせ、定型動作を省力化する 誤報、停止時の手順、安全性
AIによる予測と判定 生育、病害、需要などの判断材料を示す 根拠、外れた場合の影響、採算
農業DXを記録、通知と自動化、AIの三段階に分けた図
農業DXを記録、通知と自動化、AIの三段階に分けた図

この順番なら、AIを導入すること自体が目的になりません。
見回りの負担を減らすのか、温度変化を早く見つけるのか、品質のばらつきを抑えるのかを先に決められます。
データが不足している段階では、予測モデルより通知のほうが役立つ場合もあります。

栃木県も「とちぎのスマート農業・農業DX」で、先進事例の紹介や機器導入支援を進める一方、生産現場の課題を見極めながら活用する方針を示しています。
技術名ではなく、圃場で起きている困りごとから選ぶ考え方です。

出典:栃木県/とちぎのスマート農業・農業DX(問い合わせ:農政課 農政戦略推進室 028-623-8484)

いちご王国の温度管理が教えること

栃木県の令和6(2024)年産いちごは、収穫量25,700トン、作付面積506ヘクタール、産出額303億円でした。
収穫量は57年連続、作付面積は24年連続、産出額は30年連続で全国1位です。

この規模の産地でも、最初から複雑なAIが必要だったわけではありません。
農林水産省が紹介した高根沢町の加藤いちご園では、就農4作目から温度記録センサーを使い始めました。
しかし、当初は数字を随時取り出して分析できず、「デジタル温度計」としての利用にとどまったと説明されています。

転機は、栽培中に状態を確認できるモニタリングでした。
設定した温度の上限や下限に達すると、パソコンやスマートフォンへ警報が届きます。
局地的な環境変化を知り、シーズン中に対応できるようになりました。

いちごの温度記録を現場の対応につなげる流れ
いちごの温度記録を現場の対応につなげる流れ

ただし、数字をそのまま信じればよいわけではありません。
加藤いちご園は、測定値が正しいとは限らないため、他の生産者との情報交換を通じて補正し、現場で柔軟に使う必要があると話しています。
自動化についても、人が忘れることを防ぎ、異常を早く見つける役割を重視しています。

AIに置き換える範囲より、人が早く気づける範囲を先に広げる。
温度管理の事例は、そのほうが日々の栽培に接続しやすいことを示しています。

出典:栃木県農業総合研究センターいちご研究所/全国のいちご生産割合から見た栃木県の状況(問い合わせ:0282-27-2715)

出典:農林水産省/農業DXの事例紹介(12)「いつものイチゴ」をつくるための温度管理、ITセンサー活用


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品目によって先に選ぶ技術が変わる

では、いちごの温度管理を、そのまま水田や畜産へ移せばよいのでしょうか。
同じ県内農業でも、観察する対象と省きたい作業が違います。

栃木県の公式動画集には、ICT水管理、自動運転田植機、にら出荷調整機、搾乳ロボット、餌寄せロボット、かんぴょう採取などが並んでいます。
ここにはセンサー、機械制御、ロボットが混在しており、すべてがAIではありません。

  • 水田:水位確認や移動時間が負担なら、ICT水管理から検討する
  • 施設園芸:温度や湿度の見落としが課題なら、環境計測と通知から始める
  • 選果と出荷:反復作業が集中するなら、調整機や画像判定の適用条件を調べる
  • 畜産:搾乳や餌寄せの負担が大きいなら、ロボットと停止時の対応を一緒に設計する

一つめと二つめは、比較的少ないデータでも効果を確かめやすい領域です。
一方、画像判定や収量予測は、正解となる記録を一定期間そろえなければ精度を評価できません。
機械を入れる場合は、削減時間だけでなく、清掃、保守、通信障害、繁忙期の停止まで費用に含めます。

出典:栃木県/スマート農業・農業DXに関する動画集

4週間の試行で採否を決める

導入前の比較がなければ、機器を入れた後に効果を判断できません。
一つの圃場、一つの課題、一人の責任者に絞り、4週間だけ試します。

  1. 試行前:見回り時間、異常の回数、見落とし、手戻りを記録する
  2. 第1週:センサー値と現場の温度計を見比べ、誤差と通信状態を確かめる
  3. 第2〜3週:通知の閾値を調整し、誤報と見逃しを記録する
  4. 第4週:削減時間、対応の早さ、品質への影響、月額費用を比べる
農業DXを4週間で試し、継続判断する手順
農業DXを4週間で試し、継続判断する手順

継続の条件は、派手な機能があることではありません。
担当者が毎日使え、異常時に誰が何をするか決まり、費用に見合う変化が確認できることです。
数字がそろわなければ、AIによる予測は見送り、記録と通知だけを残す判断も成り立ちます。

県は2026年6月時点で、土地利用型農業を中心に、技術や機械を学び、相談し、体験できる「とちぎ次世代スマート農業推進センター(仮称)」の設置を検討しています。
これは設置済みの相談窓口ではありません。
最新状況は県の農政課へ確認する必要があります。

出典:栃木県/とちぎ次世代スマート農業推進センターWEBサイト制作業務委託公募型プロポーザルの実施について

農業でAIを使う最初の一手は、機器のカタログを集めることではありません。
明日の見回りで確認する項目を一つ選び、時刻と数値と対応を残すことです。
その記録が、通知で足りるのか、AIによる予測まで進むのかを決める材料になります。


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